See What I Wanna See
二幕 Gloryday - 栄光の日
原作:芥川龍之介「竜」
01. Confession - Last Year
主教の前で一人の神父が告白をしている。
一年前に起こったテロ事件から神への信仰を失った彼は、救いを求める人々に答えることができない。
神などいないのだ。
02. The Greatest Practical Joke
彼が神学校に入学した昔、モニカ叔母さんはこう言った。
「人類最大の嘘は宗教。人間を騙し、その裏で得をしている奴らがいる」
彼女は社会主義の無神論者、そして料理家でもある。
当時は聞き流していた言葉、それは正しかったのだ。
03. First Message
なぜ人々は大きな期待をして祈るのか。神なんて存在しないのに。
彼はあることを思いついた。
「三週間後 火曜日 午後一時ちょうど 奇跡が起こる この公園で この水の中から神が現れる」
そうセントラルパークに張り紙を出した。
お前たちの望む奇跡だ、好きなように楽しめ。
04. Central Park
その掲示を見たホームレスが声をかけてきた。
「栄光の日……神は私をもう一度見てくださるでしょうか?」
彼は会計士だった。しかし神が自分を見ていないことに気付き、家族を仕事を人生を捨て、この公園で楽しく暮らしてきた。
栄光の日が来れば、神はまた自分を見つけてくださるはずだ。
05. Second Message
このウソを信じる人間のなんと多いことか。
「二週間後 火曜日 午後一時ちょうど 奇跡が起こる 信仰と救済の証人になれ この水の中から神が現れる 信仰がお前たちを自由にする」
06. Coffee
掲示を見た女性が声をかけてきた。元女優の彼女は、半信半疑だ。
話しているうちに興奮してしまい、二人は公園の中で関係を持ってしまう。
神父は自問自答する。なぜ今までこのような快感を拒否してきたのか。何のために。
まっとうに生きようとしていたのに、神父まで汚してしまったと女優は自分を責める。
昔は、ビバリーヒルズに暮らすほどの女優だった。しかし酒におぼれ、崖から車ごと転落。マネージャーと恋人は失踪、顔はぐちゃぐちゃ、特集ニュースが組まれ、撮っていたCMからも下される。そんな彼女を慰めるものはウォッカとコカイン。
助けが、小さな希望が欲しい。薬も仕事も必要なんて無い。奇跡が起こりさえすれば……
07. Gloryday
叔母と電話する神父。余命宣告されている彼女を心配するが、彼女は公園の騒ぎに腹を立てているようだ。
レポーターが現れる。「この平和的な集まりは一体なんなのでしょうか?」
答える神父。「今はどの時よりも信仰心が必要です。これは人間愛の始まりで……」
失うものも無い、愚かな人々。
弱者も強者も皆集まって、くだらないTシャツやお土産を買っていけ。
「三日後 火曜日 午後一時ちょうど 奇跡が起きる 疑心は捨てよ 嘘を信じるな この水の中から神が現れる」
今すべてが、栄光の日を待っている。
08. Curiosity - Prayer
とあるバーで、神父はレポーターと出会う。
彼は神父のことが羨ましいという。こんな下らない騒ぎに答えを見つけ出せるだろうから。
こんな世界でどうやって人間愛を見つけられるのか。そんなものがあるのか。
それを取材しなければならない。好きで始めた記者という仕事なのに。
一年前のテロの日、神父と出会ったことがあるというレポーター。
火の中に飛び込んでいく神父。それとは反対に、好奇心からそれを眺めていた彼。
しかし、本能が逃げろと叫んだ。友人を置いてでも…。
好奇心は捨てたはずだった。しかし今になってまた、なぜ人々が祈るのか気になって仕方がないのだ……
神父のついたウソは大きくなりすぎた。しかし彼は何も感じない。見るだけ、聞くだけ。まるで俯瞰で自分を見つめてるように。神になるとはこのような気分なのだろうか?
オカシイのは自分ではない。毎日同じことを繰り返しながら、違う結果を求めること。
そう、祈りのように。
09. Feed the Lion
一時間後に奇跡が起こる。騙された人々が公園に集まってくる。
集まる数多の有名人を見たら、モニカ叔母がさぞ喜ぶことだろう。
レポーターが映る。「数十分後に奇跡が起こります。今ある問いは奇跡が起きるかどうかではなく、我々が奇跡を信じるかどうかということです。もう私から話すことはありません……いいえ、言葉は必要ありません」
10. There Will Be a Miracle
人ごみをよく見ると叔母がいる。彼女は見るからに体調がすぐれない。
何が起こるか見に来たという叔母に、これは全てウソだから家に帰れと促すが……
「叔母さんが一番よく知ってるじゃないか。人は恐ろしい真実より、偽りを信じるって」
「もう分からない。神はいないと言ってきたが、心のどこかでは信じていたんだ。私はウソをついていたんだ」
「これは神がいないことを証明するための嘘だ、犯人も知ってる、神なんていないんだ!」
「お前を愛してる。この愛は、私の中にあるんじゃない、違うなにかから来るんだ…」
奇跡は起こる。早くても遅すぎてもいけない。その瞬間を私たちは待つことしかできない。
奇跡は自分のためではなく、みんなで分かち合うものだ。奇跡はきっと起こる、きっと今。
11. Prayer (reprise)
小さなウソは、今や人を傷つけるものになった。
あと数分で奇跡が起こる。
これはすべてウソだ、私が犯人だ、どうかみんな帰ってくれ――
12. Rising Up - Finale Act 2
強烈な閃光が走った。暗くなる空。激しく降る雨。唸るような風。
みな振り返らずに逃げていく。神父だけは振り返った。
深い水の中から何かが登っていった。栄光……
奇跡は起きた。
しかし、神父のほかに見た者はいない。
「奇跡は起きた! 叔母さんは信じてくれるでしょう?」
「お前がそう言うなら、信じないわけにはいかないだろう?」
...
その一か月後の叔母の葬儀で、神父は再び神父服を着た。しかしまだ洗礼は受けていない。
彼はウソをついた、それは真実になった。
それは誰かのための真実ではなく、ただ自分のためだけの真実だった。
「その真実で、私はこれから何をすればよいのでしょう?」
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2016-11-04
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Eunhasu Evans: See What I Wanna See "Gloryday" あらすじ
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